食道楽 春の巻
食道楽 春の巻を読んだ。

明治時代の料理小説。
今読んでるのは復刻版だけど、仮名使いはたぶん当時のもの。
これがまた独特の味わいがある。

小説なんだけれども、実用的な家庭料理の教えが光る。
当時は上流社会でも嫁入り道具の一つになっていたほど、定評のあるものだったらしい。

確かに、料理にあまり興味の無い僕も何故かおもしろく読める。

単に料理Tipsに留まらず、家庭料理の精神も説いていて、
「食道楽」という表題ではあるが、
一般的な道楽を批判する意味がこめられているように思う。

また、基本は料理の話題だが、
小説、啓蒙書としてもなかなかのもので、そちらの展開も目が離せない。

エセ風流が国を滅ぼすという、風流亡国論、
感情的な判断もまた国を滅ぼすという、感情亡国論、
上辺だけではない、心の礼
というような主張を、各登場人物を通して展開させる。

新たな文明を人間らしい理性で切り開いていこうという、
当時の人が新しい時代の風を感じていたこと、
そういう雰囲気がよく伝わってくる。

多くの名作がそうであるように、この作品も普遍性を持っている。
100年も前に書かれたものなのに、
「これ今の時代にもあてはまるな」
というもの。

こういう本がごく一部の人にしか読まれないというのは残念だと思う。

大原「(略)そんなに料理の秘伝を人に教えては何処からかお小言が来ませんか」
お登和「(略)秘伝秘伝と云って隠すのは狭い心、(略)こういう事はお互いに教え合って我邦(くに)の料理法を進歩させるのが人の道ではありませんか」
(略)
野蛮の世には何事も秘伝多し、秘伝は文明の大禁物。

これ、オープンソースとかに触れている人はすごく実感できるんじゃないかと。
当たり前のことなんだけど、この時代にズバリ言っちゃうのもすごいな。

もう一つの見所は、やはり大原とお登和さんの関係。

大食漢の大原は、器量よし料理よしのお登和さんに一目ぼれ。
最初は気味悪がってたお登和も、大原が誠に心の礼というものを知っている
数少ない、誠実な人だと知ると、だんだんと心惹かれ始める。

友人らの助力もあって、いよいよ結婚かという時に、
親が決めた結婚相手、それも田舎育ちの大女がやってきて・・

という展開。

まとめると・・・
冷蔵庫とかそういう便利なものが無かった時代の話なので、
料理法などはだいぶ変わった所があると思うけど、
・家庭料理の精神
・新時代への啓蒙
・大原とお登和の物語

これで十分価値のある、1粒で3度おいしい、みたいな、
とにかくオススメなわけです。

オススメ度★★★★★

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