2007 9月 - しろログ

インフェルト - ガロアの生涯

2007/09/08

それは明白なことじゃないでしょうか?

彼にとって、全ては明白であったに違いない。

サイモン・シンのフェルマーの最終定理で登場した数学者で、
もっとも興味を惹かれた人物、エヴァリスト・ガロアの伝記。

15歳で数学に出会い、20歳の若さで死に至る5年の間で、
数学史に名を残す業績をあげた人物である。

もっとも、彼の生涯は共和主義者としての生涯でもあり、
最期の決闘も、その政治的活動が原因であったとされる。

恐らく、端正な肖像画からは想像できないほどの
憎悪と苦悩のうちに生涯を終えたのであろう。

本書は伝記であるから、数学的な内容はそれほど多くなく、
主に、1830年ごろのフランスの様子を背景にガロアの活動と心情を描いている。
ガロアが若くして亡くなったこともあり、また生前数学者として認められることも無かったため、
信頼できる資料は少ないが、一つの人生を想像するに十分な内容となっている。

ガロアは人生を性急に歩みすぎた。
ほとんど唯一の理解者であった父を亡くしてから、
彼は自分を理解してくれる人を探していた。

そして、誰かに認められたかったのだろう。

そのことが彼の明晰で論理的な頭脳をして、彼を極端な行動に駆り立てた。
その結果、共和主義者としては、危険人物とされ、
数学者としては、狂人だと思われるに至った。

最高学府の理工科学校入学試験には二度落第し、
三度提出した数学論文は全て受け付けられなかった。
いずれも、ガロアの才能を見抜けなかった人々が下した結果だった。

政治犯として、投獄されたガロアは友人に語る。

ねえ、ぼくに何が欠けているか、わかりますか?
貴方にだけ打ち明けるんです。
それは、ぼくが、全身全霊で愛せる人なんです。

彼は、自分が愛し、そして愛される人を求めていた。
もし、そのような人がいたら、
彼の心の支えとなって、より偉大な数学者への道が開けたかもしれない。

そんな時に現れたエーヴ(ステファニー・ドゥモーテル)は、
彼にとって唯一の期待となっただろう。

しかし、彼女のためにガロアは死へ導かれることとなる。
エーヴには恋人がいたにも関わらず、ガロアが誘惑したというかどで、
恋人から決闘を申し込まれたのだ。

これは政治的危険人物とみなされたガロアに仕掛けられた罠であった。

いかがわしい浮気女の犠牲となって小生は死ぬ。
みじめなる一片の誹謗のなかに、わが人生は消えてゆく。

決闘までの13時間、ガロアはその頭に蓄積された数学の成果を遺すことに費やした。

2~3年分の思索を13時間でまとめなければならない。

証明が不完全であることを知りながら、
要となる概略を書き続ける。

ガロアが遺した原稿には今もその記述が残る。

もう時間がない

この時遺された原稿は、数少ない友人シュヴァリエや、
弟アルフレッドによって数学者たちに広められた。
それでも数学者たちがガロアの業績に気づくのにはさらに時間を要した。

しかし、死の当時、一介の共和主義者だったガロアは、
今日、群論の祖たる大数学者として知られている。

20世紀から現在の主要な数学・物理学の根底には
ガロア理論が生きているのである。

オススメ度★★★

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夏目漱石 - 夢十夜

2007/09/05

夢十夜を読んだ。

他、『文鳥』と、『永日小品』が収められている。いずれも、短編。
日常の一片を切り出した作品が魅力的。

自分は何処へ行くんだか判らない船でも、やっぱり乗っている方がよかったと始めて悟りながら、しかもその悟りを利用する事が出来ずに、無限の後悔と恐怖とを抱いて黒い波の方へ静かに落ちて行った。
夢十夜 第七夜

このあたりの表現は、さすがに目を上げて考えさせる力があるが、
漱石くらいにもなると、ちょっと平凡な気もした。
それよりは、以下のような文が面白いと思った。

幾何の説明をやる時に、どうしても一所になるべき線が、一所にならないで困ったことがある。
ところが込み入った図を、太い線で書いているうちに、その線が二つ、黒板の上で重なり合って一所になってくれたのは嬉しかった。
永日小品 変化

なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。

オススメ度★★★

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サイモン・シン - フェルマーの最終定理

2007/09/02

フェルマーの最終定理を読んだ。

常々読みたいと思っていたのを、近くの図書館で見つけたので、ついに読めた。

本書はフェルマーの最終定理にまつわる数学史のドラマをつづったものである。

まずサイモン・シンの構成力、説得力には驚愕する。
これは単に数学に興味ある人だけの本ではない。
ロマンを求める全ての人にオススメできる。
涙がにじむほどの感激で、証明の瞬間を迎えるだろう。

大事なのは、どれだけ考え抜けるかです。(略)
その問題以外のことを考えてはいけない。
ただそれだけ考えるのです。それから集中を解く。
すると、ふっとリラックスした瞬間が訪れます。
そのとき潜在意識が働いて、新しい洞察が得られるのです。
- アンドリュー・ワイルズ

さて、問題のフェルマーの最終定理とは、以下のようなものだ。

xn+yn=zn
この方程式はnが2より大きい場合には整数解をもたない。

よく知られたピタゴラスの定理は、nが2の時、つまり、
x2+y2=z2
である。(解の例:x=3、y=4、z=5)

ところが、このnが3以上になると解は無いというのである。

問題の意味は誰でも分かる。
しかし、これが証明されるまでに358年を費やしたのだ。

フェルマーは言った。

私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない。

そして、記すことの無いまま、世を去った。

これがどのようにして証明されたかは当然、本書を読んでいただきたいと思うが、
一応覚書として、背理法による証明の概略だけメモしておく。

・フェルマーの最終定理が間違いで、少なくとも一つの解が存在すると仮定する。
・解を持つとすると、この方程式は楕円方程式へ変換できる。
・谷村-志村予想により、全ての楕円方程式は、モジュラーでなければならない。
・しかるに、変換した方程式は、楕円方程式であるにも関わらずモジュラーでない。
・よって、フェルマーの最終定理に解が存在するという仮定は誤りであり、解が存在しないことが証明された。

また、本書を読んで、
あらゆる学問の中で最も美しいのはやはり数学かもしれないと思えた。

証明は、一分の隙も無いという意味で完全であり、絶対である。
つまりイデア的な美しさを目の前にできるのだ。

世の中に、「完全」とか「絶対」というのはそう多くない。

例えば、手に持ったボールを離したら、地面に落ちていく。
それは確かだし、恐らく地球上でその反例を見た者はいない。
ところが、それを証明するすべが無い。
「絶対に落ちる」とは言えない。

宇宙船で生まれ育った人に、
「ボールを離したら、地面に落ちていく」
ことを理解してもらえるだろうか。

数学は理解してもらえるのである。

疑問の余地が一切無い「証明」という行為ができるのは
ただ数学だけであるという点で、数学は美しいのである。

「不滅」とは愚かしい言葉かもしれないが、それが意味するものになる可能性は、たぶん数学者がいちばん高い。
G・H・ハーディ

唯一の疑問は、フェルマーが当時の数学テクニックでこの定理を証明できていたのか、ということ。
もちろんフェルマーの頭の中だけのテクニックもあったかもしれないが、
証明できていたとすれば、ワイルズのそれよりも、
もっとエレガントな解法だったりするのではないかと思ったりもする。

オススメ度★★★★★

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