哲学者の密室を読んだ。

ミステリーと言えば、単に謎解きや、
犯人の心理に焦点を当てるものだと思っていたので、
本書のような、哲学を軸にしたものは新鮮で面白かった。

事件を現象学的に捉え、その本質を直感し、
多数成立しうる論理的推論から、
最も真実に近いものを選択していくという手法は
なんとなく知的な興奮を覚えるものではないでしょうか。

ここまで哲学的解釈が適用できて、
しかも、登場人物がその話についていける事件って
すげーって感じなのですが、まあ、そのためのお話だし・・ということで。

本書では、「自分を自分として存在させているもの」が
テーマの一つなのかなと思います。

人間を単なるモノとしての存在にとどまらないものにしてくれる何か。
それは、たとえば思想であったり、師であったり、愛する何かだったりします。

これが無くなったとき、
つまり思想が崩壊したとき、愛するものが何一つ無くなったとき・・
それは人がなんら意味を持たない、ただ「ある」というだけの存在になるということです。
あらゆる希望が奪われた強制収容所の囚人、
自分の信念が根底から覆された人間、
それは、ただ「ある」ものとしての存在です。

愛する対象を見出したときに、生まれてはじめて、ついに怖れの感情に目覚めるのだ。

これは、愛する対象を失うこと自体を怖れるのではなく、
それを失うことで、自分がただ「ある」ものでしかなくなることを怖れる、とも解釈できます。

「自分の存在可能性の中心点」を何にすべきか、
そもそも、ただ「ある」ことが何故恐怖なのか、
考えるネタがいろいろ出てきます。

オススメ度★★★★